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 むかし、天保のころの話です。

 ある、あたたかな春の夜のことでありました。

  軽井沢の藤蔵さんは、隣村の田代に行き、夜、ふけて家へもどって来ました。

 村ざかいの寂しい竹林のところまで来ると、藪の中からみょうな話し声がきこえてきました。

 こんな夜ふけに、だれだろうかと、足をとめて耳をたてていると、たしかに、いく人かの声がするのでした。
  「 どうだ、みんな集まったかい? 」

  「 いや、まだ上の白が来てないぜ 」

  「 白のやつ、いつもは早いくせに、今夜にかぎってどうしたずら? 」

と話し合っているのでした。

 そんな時、ガサガサと誰かの歩く音がすると、

    「 やっと、上の白が来たぜ 」

という声がききとれました。

  「 なんだよ、こんなにおそくなって、お前が来ないばっかりに、踊りがはじめられないじゃないか 」

と、親分らしい者の声がしました。

そして、

  「 ○○屋の”トラ”、××やの”三毛”、△の”くろ”、□屋の”ぶち”、☆屋の”玉” 」

と、たしかめるように叫びました。

  「 みんなそろったようだ、ぼちぼちはじめるか 」

というと、ほかの者が、

  「 白やい、今夜はお前が笛を吹けよ! 」

というのでした。

すると、

  「 今夜はおれはだめだ、笛はふけないよ 」

  「 どうしてだ! 」

  「 おれは今夜、夕飯に、熱い”おじや”を食わされ、舌をやけどしてしまったよ 」

などと、やりとりをしていました。

 しばらくすると、親分らしい者が、

  「 しかたがない、それでは今夜は踊りはできねえ、お開きにしよう 」

というのでした。

  ほかのものも、しかたなく、

  「 そうしよう、そうしよう 」

と、みなガサガサ音をたてて、どこへともなく行ってしまいました。
 このようすを、きき耳をたてて聞いてしまった藤蔵さんは、”おかしなこともあるものだ?”とおもいながら歩き出しました。

  ”それにしても、もの好きな人もあったもんじゃ、藪の中で笛を吹いて踊っているなど聞いたこともない。

  それに、白、ぶち、くろ、三毛、玉なんて、みんな猫の名前だ”と、あらためて思いなおしました。

 藤蔵さんは、おそろしくなり、急いで家に帰ると、かみさんに聞くのでした。

  「 猫の白に今夜は何を食わしたな ?」

  「 なんにもなかったもんで、残りの”おじや”をくれました 」

 かみさんの返事に、藤蔵さんはびっくりして、村ざかいでの出来ごとを話したのでした。

 かみさんも”とんだ、化猫を飼ってしまった!”と思うのでした。

 こうなっては、なんとかうまく化猫を追いはらう方法はないかと、相談するのでした。

 あれこれ考えたすえ、かみさんが、

  「 あんた、いい方法がありますよ! 」

  「 どんな方法だ? 」

  「 それは、あんたが村ざかいで聞いた猫の話が本当なら、白は人間のことばがわかるはずです・・・。

 あんたが、よく話をすれば、きっと、話を聞きわけてどこかに行くにちがいありませんよ 」

と、いうのでした。藤蔵さんは、しかたなく、あしたにでもなったら話してみることにしました。

 あくる日、囲炉裏のわきにうずくまっている白を捕まえて、藤蔵さんは話しました。

  「 白よ、お前はなあ、どうも人間のことばがわかるらしいのでいうのだが、うちでお前を飼っているのは、踊りをおどったり、夜ふけに笛を吹いたりするために、飼っているのではないぞ!

 もし、お前がそんなことをしているのなら、うちで飼っておくわけにはいかない。どこかへ行ってくれないか 」

 すると、その日の夕方から白の姿はどこにも見えなくなりました・・・。



「化けそこなった動物たち」より。

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